北欧・バルト三国で活躍する日本人研究者の紹介

石﨑 隆弘 Ishizaki Takahiro

ウメオ大学、Molecular Infection Medicine Sweden (MIMS)

ポスドク研究員


現在、スウェーデンではどんな研究をされていますか?

寄生虫学を専門としています。マウスに感染したマラリア原虫がどのようにして宿主の免疫・栄養状態・概日リズムを感知するのか明らかにしたいと思っています。具体的には遺伝子欠損原虫ライブラリーを用いて感染実験を行い、異なる宿主環境条件下における組換え原虫母集団の割合変化を追跡することで環境感知を担う分子の探索を行っています。


寄生虫学に興味をもったきっかけを教えてください。

一部の原虫がなぜ赤血球に寄生するのだろうかという点に興味を持ち、獣医学部ではウシ赤血球に寄生するバベシア原虫、博士課程ではヒトに寄生するマラリア原虫の研究を始めました。研究を始めた当初は原虫の赤血球侵入機序に興味を持っていましたが、寄生虫が持つユニークな寄生戦略や生物としての面白さの虜となり現在まで寄生虫の研究を続けています。


現在の所属機関を選択した理由は何ですか?

2015年に現在のPIたちが発表した論文の新規性と緻密に組まれた研究内容に圧倒され、漠然といつか海外で働きたいと思うようになりました。その後大学院生の時にタイで開催されたワークショップで直接Bushell博士とお会いした際に留学したい旨を伝え受け入れ許可をもらいました。ウメオには大学院四年次に留学を行い、その期間中にポスドクとして働くオファーを頂き、学位取得後渡航を一年延期して現在に至ります。

研究を行う上での一番の課題を教えて下さい。

今後研究を続けていくための一番の課題としては「これまでの経験を踏まえつつ、自分自身で独創性のある研究分野を切り拓くことが出来るのか?」という点だと個人的には考えています。これまでは研究の興味が多方面に拡がっていましたが、「研究者人生を通して何を明らかにしたいか」という問いに留学期間を経て自信を持って答えられるようになりたいと考えています。


スウェーデンの研究環境について、日本と比べて、どのような印象をおもちですか?

個人の経験に基づく意見となるのですが、ポスドクの多さに驚きました。日本は大学院生がメインとなって研究を進める一方、海外の研究所ではポスドクが主体となり研究を進めている印象を受けました。またスウェーデンの良い点として若手独立PIが多くスタートアップ支援が充実していることが挙げられます。その一方で共通機器や大型の研究機器に関しては日本の方が最新の機材を導入している印象です。研究費を「ヒトに投資するか、モノに投資するか」といった特色の違いがスウェーデンと日本それぞれにあると感じました。


最後に、これからスウェーデンで研究を始めようと考えている研究者にメッセージをお願いします。

スウェーデンは自然が豊かで治安も良く、とても過ごしやすい国だと思います。休暇を大切にしており夏至祭後の6月下旬から夏休みが始まり、アドベントが始まる11月末より冬季休暇が始まるため仕事と休みのメリハリがしっかりしています。研究所外のレストランやスーパー等でも英語を使ったコミュニケーションが可能ですが、現地生活を楽しむためにもスウェーデン語の学習をお勧めします(私も研究の傍ら、勉強しています)。私の住むウメオは北極圏に近く夏は白夜・冬は極夜に似た状態となるため、日照時間が短くなる冬は夜遅くまで研究せず無理のない生活を送るという点も北欧の生活では大切です。寒がりの自分は冬の気温に耐えられるか心配でしたが、所属する研究室のメンバーと冬場の野外ハイキングやオーロラ観測を楽しんだ結果、無事(?)順応して現地生活を満喫しています。


(2022年6月)

略歴

2021年-      Molecular Infection Medicine Sweden (MIMS), Postdoctoral research fellow (JSPS海外特別研究員)

2020年-2021年   長崎大学 熱帯医学研究所 助教

2020年3月     長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 博士課程修了、博士(医学)号取得

2019年      Molecular Infection Medicine Sweden, Visiting student

2017年-2020年   JSPS特別研究員 (DC1)

2017年      Harvard T.H. Chan School of Public Health, Visiting student

2016年3月     帯広畜産大学 畜産学部 獣医学課程 卒業